チーレー村はハノイ中心部から30 km離れたタインオアイ県の郊外にある村です。この村はベトナムを象徴する伝統的なヤシの葉の帽子で有名です。輝く真夏の太陽は、ヤシの葉を乾燥させるのに最適なので、チーレー村の住人は村に通じる道路に沿って、ヤシの葉を並べて乾燥させます。
チーレー村に到着するとすぐに、ベトナム北部では馴染みのある雰囲気を感じることができます。 村の前には80年以上前に作られて、塗装が剥げかけている門があります。 開いた門を少し覗くと、乾燥したヤシの葉によって地面が白く染まっているように見えます。日陰の屋根の下で、年配の女性と子どもたちがせわしなく帽子を編んでいる姿は、何世代にもわたって継承されているベトナムを象徴する風景です。
ヤシの葉を乾燥させるチーレー村の住人(写真:Hoai An) |
チーレー村の人口は約4,000人で、そのうちの4分の3がヤシの葉を使った帽子の作り方を知っています。シンプルで複雑な工程を必要としないため、帽子作りは農場が少ない農家にとって非常に最適です。村で古くから帽子を作っている家族の一人であるNghiem Phu Luan氏は、彼らの伝統について話してくれました。「この村は400年以上にわたって帽子を作っています。 私たちは父、祖父と先祖代々、帽子を作っている姿を見て育ちました。それぞれが職人の技を受け継ぐことで、この伝統を作り上げてきました。私たちの帽子はその100%が手作りです。 他の村では、機械を使用して竹を割り、ヤシの葉を加工することで、家具や他の製品を作ることができます。ですが、私たちはそうはしません。多くの人が試してみましたが、チーレー村の帽子の生産をサポートできる機械はありませんでした。」
帽子作り職人のNghiem Phu Luan氏(写真:Dieu Ha) |
チーレー村は円錐形の帽子作りで最も有名です。他のヤシの葉の帽子と同様に、帽子メーカーは最初に木製のフレームを作成して、サイズが異なるいくつかの曲がった竹の輪をきれいに配置する必要があります。 これは帽子作りの工程の中で、最も複雑で時間のかかる作業です。Vu Thi Hong氏は80歳を越えており、7歳からこの仕事を続けています。長年帽子を作り続けてきたVu Thi Hong氏は次のように話してくれました。「帽子を形作る竹の輪が完璧で安定していれば、ヤシの葉を簡単に編むことができます。 しかし、竹の輪が少しでも歪んでいると、帽子は美しい円錐型を保てません。 したがって、この作業は全員ではなく、スキルのある人だけが行なうことができます。さらに、材料となる竹は森で自然に成長し、まっすぐで強くなければなりません。ご覧のとおり、外側と内側の木製のフレームの間に竹の層があり、円錐形の帽子をしっかりと丈夫に保ちます。」
帽子作りで一番複雑な木製のフレームと竹の輪を組み合わせる作業(写真:Dieu Ha) |
強力なフレームが完成すると、ヤシの葉が糸を使ってフレームに取り付けられます。チーレー村の円錐形の帽子は、2層の葉で作られていることで有名です。 職人はその2層の葉を薄く作り上げるために、熟練の技を必要とします。Vu Thi Hong氏はこう続けました。「ヤシの葉を購入したときはまだ新鮮な状態です。そのため、葉が白くなるまで通常15日以上乾燥させます。キッチンの火やアイロンを使用して、ヤシの葉が完全に『調理される』まで何度も何度も繰り返します。これは、ヤシの葉を柔らかく滑らかにすることで、縫いやすいくするために行ないます。」
ヤシの葉をフレームに縫い付けるVu Thi Hong氏(写真:Dieu Ha) |
チーレー村はヤシの木を栽培せずに、他の州から材料を購入しています。Nghiem Phu Luan氏は次のように述べています。「私たちは主にヤシの木の若い葉を使って帽子を作ります。他に使用できる葉は、ラピの木の一種で、中部のハティン省とクアンビン省でのみ成長します。 過去にはサトウキビや葦の葉を使って帽子を作っていましたが、後になって、若いヤシの葉が軽くて通気性がよく、その上、防水性もあるため、最高の素材であることがわかりました。」
チーレー村は象徴的な円錐形の帽子以外に、Quai ThaoやXuan Kieu、Thungなど、他のベトナムの伝統的な帽子を保存および復元することでも有名です。アーティストのNguyen Huy Anによると、チーレー村はベトナム北部の人々の生活と職人芸について学ぶ重要な場所の1つです。「チーレー村は伝統的な帽子の歴史について知ることができる素晴らしい村でした。例えば、Ba Tamという帽子は、長い歴史の中で完全に姿を消して、誰も使うことも作ることもしていませんでした。しかし、チーレー村の人々はその帽子を復元することで再び生き返らせました。伝統的なそれぞれの作品は、教科書で学ぶ歴史とは違い、非常にユニークな方法で私たちに歴史を伝えます。」
帽子の販売価格が安価であることから、職人が得られる稼ぎは帽子1つで8,000VNDばかりです。そのため、チーレー村に住む住人のほとんどは、帽子作りを農業の合間に行なうアルバイト感覚で考えています。しかし、市場における需要や流行の変化に伴って、チーレー村の帽子は生き残りをかけた多くの課題に直面しています。Luan氏は次のように述べています。「市場についてお伝えすると、かつて、私たちが作る帽子は、そのほとんどがベトナム国内で販売されていました。市場がオープンになった1990年代以降、チーレー村の帽子は国際市場へと進出することになったのです。しかし、帽子作りの労働時間に対して得られる収入が少ないため、多くの若者がこの仕事を諦めているという事実に変わりはありません。今現在、私の村では、外での仕事を見つけることができない人や老人、子どもだけが帽子を作り続けています。この限られた労働力では、市場のニーズを完全に満たすことはできません。」
帽子を作っている人のほとんどが老人や子ども(写真:Nguyen Minh Son) |
Luan氏は、この伝統的な帽子作りを継承し、チーレー村の住人たちが帽子を作り続けるために必要なものは、純粋な愛と情熱だと信じています。しかし、市場の変化に遅れないようにするためには、帽子を作る人々が、今までの帽子作りを革新し、より現代風な帽子に形を変えることが必要です。Luan氏はこう続けます。「チーレー村の歴史の中で、私たちは伝統的なヤシの葉の帽子を常に革新しています。アイデアを思い付いた職人たちは、そこからすぐに帽子の形状やフレーム、素材を少しずつ変化させていきます。この帽子を見てください。ベトナム人は、今までの歴史の中で、つばのある帽子をかぶっていませんでした。これは西洋式であり、市場オープンになってから、初めて知られるようになりました。また、中国で有名な英雄をもとにデザインしたLam Xungと呼ばれるタイプの帽子も人気がありました。私の家族が作った中でも人気な帽子の1つです。」
Lam Xungと呼ばれるタイプの帽子を作る人(写真:Nguyen Minh Son) |
アーティストのNguyen Huy Anもまた、帽子作りの未来について大きな懸念を示しています。彼は次のように述べています。「チーレー村の伝統が、この先の将来も続いていくとは思えません。その存続は、アーティストやファッションデザイナー、映画監督など、本当に気にかけている人々にかかっており、帽子を作る人々にはどうしようもありません。職人は帽子作りよりも、生計を立てるためのより良い手段を見つける必要があります。しかし、私が最も心配しているのは、このような問題がチーレー村だけでなく、他の多くの村でも存在しているのではないかということです。伝統工芸のデザインは、それらの製品を輸入する外国企業の注文によって決められることが多いです。これによって、帽子本来の特徴やデザインを消失してしまう可能性があります。」
ヤシの葉の帽子は、ベトナムを象徴する固有の文化であり、何世紀にもわたって使用されてきました。チーレー村の伝統を存続する必要があると認識を示した、学術的なアーティストや芸術研究者のグループであるSix Spaceは、近年ハノイ中心部で展示会とワークショップを開き、チーレー村の製品をより多くの人々に紹介しました。このプロジェクトの責任者であるアーティストのLe Giang氏は次のように述べています。「帽子の展示会を開催した理由は、この文化・伝統がベトナム人にとって最も重要な特徴の1つだからです。しかし、こういった伝統工芸は徐々に衰退しており、その歴史と発展について知っている人は多くありません。私たちのプロジェクトの目的は、美学や創造活動のプロセス、チーレー村に住む人々の美学や創造性、そして帽子作りに影響を与える内的要因と外的要因を議論することです。」
夏休みの間、チーレー村の子どもたちは、祖母と母親の帽子作りを手伝うために家にいます。子どもたちの笑い声は、村の静けさを活気のある雰囲気へと変化させ、チーレー村を訪れる人は、伝統を学んだり、お土産を買ったりするだけでなく、新鮮な空気と美しい風景、そして気さくな住人たちとの関わりを楽しむことができるのです。
SOURCE: Tri Lễ – a village that makes traditional palm leaf hats